vie riche

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TOKYO/OL/minimalism///

人生で初めての小説と初恋の終わり

私は文章を読むのも書くのも好きです。好きになったきっかけは何かな…と考えた時に、ふとある小説のことを思い出しました。

私が人生で初めて手に取った小説と、ほろ苦い初恋の思い出です。

 

私は私立中学に進学するため、受験対策塾に通っていました。

初めはどの教科も同じような成績でしたが4年生の時の国語の先生が面白かった(上に若いイケメンだった)のもあり、国語の成績が少しずつ伸び始めました。

しかし5年生になるタイミングで先生が別校舎に移動になってしまい、別の先生が来ました。

 

そして新しい先生の初回の授業。先生が入ってきた瞬間クラス中がざわめきました。

見た目からして絶対若いのにちょっと禿げている!!!

子どもの反応は残酷で、皆が明らかに頭に注目していました。

 

すると先生が「おい、頭見ただろ?先生はいっぱいいっぱい考えすぎて頭に栄養がいかなくなっちゃったんだ。先生みたいに禿げるぐらい、みんなもいっぱい考えような!」とあっけらかんと笑って言ったのです。

別の先生に代わってがっかりしていたのですが、その言葉を耳にした瞬間「なんだか楽しい授業になりそう」とワクワクしたことをよく覚えています。

 

先生の得意分野は文章読解。

私が通っていた塾には宿題用の復習テキストがあったのですが、先生は毎週その宿題とは別に、長めの文章を読んで要約する課題を出していました。

クラスのみんなはあまり出していなかったのですが、私は毎週欠かさず出していました。

知らず知らずのうちに、文章の本質を掴む力がついていました。

 

するとめきめき成績が伸び始めました。

6年生の夏休みに受けた記述模試ではなんと満点を取りました。(偏差値がとんでもないことになっていました。笑)

 

さらに先生はみんなのモチベーションを挙げるために、ポイントカードを導入しました。

授業の問題や先生が出すクイズに正解するとポイントが貯まっていきます。そしてポイントが貯まると豪華な景品がもらえるのです!

毎週クラス内でわいわい競っていました。

 

5年生の夏になる頃には先生の授業が大好きになっていました。

先生の教え方はもちろんですが、先生が「雑談」と名付けていた今までの人生や価値観、なぜ教える職業を選んだのについてか…そんな雑談の時間が大好きでした。

小学生相手にも本気で話してくれている。少なくとも小学生の私にはそう見えていました。

自分の仕事を誇りに思っている先生に憧れていました。

 

先生がある日「クラス内新聞を作ろう」と提案しました。

裏表1枚の新聞でしたが、クラス全員のアンケート結果がぎゅっと詰まったものでした。(この新聞は大事にしていたのですが、中高時代になくしてしまいました…)

新聞の詳しい内容は忘れてしまったのですが、ひとつ覚えているコンテンツがあります。それは「みんなの将来の夢」。

 

先生はアンケートの結果を集めるがてら、クラスの一人ひとりと面談をしていました。もちろん私も面談しました。

先生は私のアンケート用紙の「将来の夢」欄を見て、ちょっとびっくりしていました。それはかなり具体的な夢であり、あまり小学生が書かないような夢だったからです。

 

先生に理由を聞かれ、私は「説明文を読んでも、物語を読んでも、なぜ登場する人がそのような行動をするのか気になるから」というようなことを答えました。

すると先生は「君はもう十分、大人の一人として扱わないといけないね」と言っていました。

なんだか照れくさい気持ちになりました。

 

そんなこんなでいよいよ受験シーズンも迫ってきました。授業はいつも以上に白熱しつつも、相変わらずポイント制は続いていました。

ある日、ポイントの景品に初めてのものが並びました。

それは本でした。しかも、小説。

青い鳥文庫のような小学生向けの本はよく読んでいましたが、小説をしっかりと見たのはその時が初めてでした。遠くから見るその小説の佇まいに、目が吸い寄せられました。

先生はその小説について、人生でも大切にしている一冊だと言っていました。

 

その日の授業終わり。なんとポイントが貯まり、景品と交換出来ることになりました。

私は迷わずその小説を選びました。

先生から渡されたその小説は既にページが黄色っぽくなり、しなやかさを帯びていました。

軽い小説なはずなのに、なんとも言えない重みを感じました。

 

夜、初めて日付が変わるまで夜更かししてその小説を読みました。

小説の世界観に入り込み、夢中で読んでいました。

ラストシーンではポロポロと涙が溢れました。本を読んで泣くのも、もちろん人生で初めてでした。

 

その次の週の授業終わり。先生に小説の感想を言おうとしていた時のこと。

帰りの支度をしていたら、クラスの男子が私に聞こえるように「国語しか出来ないのになんなんだよあいつ。調子に乗ってんじゃねーよ」と言いました。

 

その瞬間、頭が真っ白になりました。

私が国語が好きな気持ち、先生が好きな気持ちは調子に乗っているだけなんだ。

先生に何も言えず、教室を飛び出しました。

 

いろいろ考え、先生とはあまり話さないようにしようと決めました。

当時の私にとってはその選択がいっぱいいっぱいでした。

 

受験シーズンを迎え、私は無事志望校に合格しました。

その後校舎にお礼に言った際先生に会おうとしましたが、会えませんでした。

先生は別校舎に移動になったと受付のスタッフの方に聞きました。

 

その後時々思い出しては先生の名前を検索フォームに入れてみるのですが、何も情報は出てきませんでした。

 

私は大学受験でも国語が、特に現代文が本当に得意でした。

よくどうして?と聞かれたのですが、自分でも(今でも)よく分かりません。

確かに言えることは、小学生の時に培った文章や言葉選びに対する感性は私の土台であり一生ものでした。

 

そして学んだこと以上に、先生のあり方は私の中に強く残りました。

淡い淡い初恋でした。初めて憧れた人でした。

 

どんなに身軽になっても「西の魔女が死んだ」は手放せません。

この本があれば、いつか先生に会えるような気がして。

 

先生。私はあの面談の時に描いた夢を、少し違う形ですが、この春から叶えます。

 

 

今週のお題「受験」